2009年5月22日金曜日

tete-a-tete Side[M]

イメージは珈琲に牛乳を垂らしてできる渦。渦を形作ったものは、やがて触媒と混ざり合い一つのものへと変わってしまう。
別々にいてもよかったのに、混ざり合ってしまったらそれはもう元通りにはならないのに。互いを溶かしあうよう垂らしたのは自分自身なのに、それをしたあとは忘れて後悔してしまう。

怖くて、恐くて、だから私は向かい合う。

私たちは一つになるべきですか?
私たちは別々であるべきですか?

恐くて、怖くて、だから私は背を向ける。

※※※

tete-a-tete Side[M]

※※※

上空では風が強く吹いているのだろう、雲がめぐるましく形を変えながら通りすぎて行く。
それにしても、"風"とはどこか弱々しい、と香坂美咲は寝転びながら考えた。
風はいくら強くなっても暴風やら強風やらと語尾辺りで気合いが抜けてしまう言葉のままだ。雨なら嵐、雷なんかは何をしなくても強そうな言葉なのに風は風。訓読みだろうと音読みだろうと"ふう"と"かぜ"。
(つまりは私は退屈なのだ)
こんなくだらない思考にエネルギーを使うなんて、私も墜ちたものだ。そう考えたが、"墜ちる"に対するイメージが美咲の中には固定されていなかった。
元いた生活は、この世界では墜ちた生活だろう。しかしそこで生まれ育った美咲にとって、今いる世界は緊張感も何もない弛みきった墜ちた生活だ。
果たしてどちらが正しいのだろう?
戻る気はサラサラないが、実家は二三日もかければ着いてしまう場所にある。同じ陸地にいるのに、住む世界が違うだけで常識が反転してしまうのが美咲には不思議だった。
(彼女の価値は変わらないのに、私の価値はこうも簡単に崩れている)
血と一つの肉を二人分に分けた掛け替えのない半身。どれだけ離れても手にとるように彼女のことは分かる。今も美咲を迎えにくるため軽やかに階段を上っているだろう彼女の価値は決して変わらない。それだけがどんな世界にいても揺るがないものだった。
「捜したわよ、美咲」
灰みがかった髪、色素の薄い瞳、陶磁器のような肌…どれも黒髪に暗赤色の瞳、そして手入れを怠った肌の美咲とは対称的なのに彼女、神宮寺雪那は自分と同じ血が流れているのは紛れもない事実だ。
雪那は錆びて動きにくくなった扉を開けて、屋上の床に寝転がる美咲まで歩いてきた。膝丈まである長めのものとはいえ、れっきとしたスカートをはいている雪那がちょうど足先が美咲の頭で止まったので、美咲が少し視線を上げると目の行きどころがなくなってしまう。が、そういうものは昔から見慣れてるので、美咲にとっても雪那にとってもあまり関係がなかった。
「また辺鄙な場所にいて…こんなところに来るのは美咲ぐらいなものよ?」
「見つけやすくていいじゃないか…」
「でも来るのに疲れるわよ。ここって廃棄ビルでしょ?見つかったら面倒くさいし、そろそろ帰らないと私が困るし美咲も困る」
うー、と思わず唸り声を上げた美咲だが、すぐに諦めて身体をおこした。下に敷いていたくたびれた茶色のロングコートの埃を軽くはたいて落とすと、美咲は鎖とベルトを巻くことで補強した黒のアクリルセーターの上に羽織った。
「仕事、ねぇ…」
「ほらほら、とりあえず仕事をやり終えられるぐらいの気合いを出しなさいな」
「…雪那、今日は普通に帰るだろ?送らなくて平気?」
「私を送ってそのままサボろうとするなら叱るよ、もう。今日は美咲の部屋に寄ってご飯作ってから帰るよ。たまには栄養のあるもん食べなさい…目を離すと美咲はすぐに不健康生活に突入するんだもの」
質が悪いのはそれでもしばらくは健康体で暮らせる美咲の丈夫さよね、なんて追い討ちもかけられると美咲には返す言葉がなかった。
雪那から目を外し、もう一度空を見上げる。
見えるものまで同じなのに、逃げてきた世界と逃げ込んだ世界はこうも違う。所詮、世界なんて人の数だけあるのだ。
その無限のなかで、普通は誰もが孤独なのだ。
けれど、私はそれの例外に入るのだろう。
美咲には、美咲が美咲であるための、または逃げ込んだ世界とは異なる世界にいる自分を結ぶ自分以外の楔があった。
美咲と彼女は一つのものでないのは当たり前だ。別々の存在だということは知っている。彼女は美咲ではない。一緒に元の世界から逃げたのに、今の世界に彼女が順応しているのと自分がしていない事実で二人が異なる世界に住んでいることも理解できる。それでも、彼女の間には何なのか分からないナニカが強く、強く捩り固く繋がっている。それは愛欲なのか、独占欲なのか、母性による庇護欲なのか、それとも根本から違う別の何かなのか…美咲には分からなかったし、まだ識ることを心が拒んでいた。
恐くて、怖くて…だから美咲は雪那から視線を外した。

空に浮かぶ太陽がほんの少し傾き始めている。あと少しもすれば、そこは美咲の世界だ。そう…夜と月、血と破壊が満ちた世界。

※※※

続く!!!

……
………
……うーん

現実逃避っていわないでorz

オリキャラの香坂美咲と神宮寺雪那のサイドストーリー。というか美咲の心情吐露。
本編書いてないのにサイドストーリーなのは本編なんて書く時間がないから。かつ、うたわれとかティアーズトゥティアラとかまぁとにかくいろんなのに触発されてなんかを一気書きしたくなったから。だからもしかしたらこれさえ続かないかもしれない。
美咲は何度か書こうとするのに失敗するキャラ。書くと基本的に暗い方へ突き進むのなんでだろ。
非常識の常識と非常識の非常識のお話。非常識の常識は常識の非常識だけど、非常識の非常識が常識の常識とは限らない。

tete-a-tete
[名]�差し向かいの話,2人だけのないしょ話�(2人用の)S字形ソファー
[形]�2人だけの;差し向かいの
[副]�2人だけで,差し向かいで

……別に百合で書くつもりはないのに、そっちと依存は紙一重

ちなみにSide[M]は美咲のMです…とか考えてみれば雪那サイドにしたらtete-a-tete Side[S]……狙ってないのに、狙ってないのに……orz

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