2008年1月28日月曜日

永き聖夜

今、あなたはなにをしていますか?
この空に続く場所にいますか?
あの頃のように笑顔でいてくれていますか…?

永き聖夜

ゆらゆらと夜の海に漂う感じ。だんだんと浮かび上がって、息苦しさから開放される。
呻きながら重たい瞼を上げるとまず視界に入ったのは茶色い机だった。何故だと考えてようとしても頭は上手く回らず、少しふらつきながら私は顔を上げた。上げた、ということはどうやら私は眠ってしまったらしい。そういえばなにか懐かしい夢を見ていた気がする。
「…さま」
「ん…、し…おり?」
私の隣からふんわりとした声がした。だから感じたままに相手の名を呼ぶ。
記憶が曖昧で、一瞬自分が何を口走ったのかも分からなかった。
「志摩子です、お姉さま」
「ぁ…、あぁ、ごめん志摩子」
余程寝ぼけていたらしい、よりによって志摩子を栞と間違えるなんて。見渡すとここは薔薇の館で、蓉子や江利子たち紅、黄薔薇組はまだ来ていないようだった。
そこまで頭が働き始めるとようやくついさっきまで見ていた夢の内容は去年の再生だったことを思い出した。
あの頃からもう一年、まだ一年しかたっていない。昔の栞と出会っていた自分ならどちらにとらえていただろうか。きっとまだ一年しかたってない、もっと栞に会いたいもっと栞を知りたいもっと栞と一つになりたい、と両の手で栞を抱き締めただろう。いばらの森の中、互いが求めれば求めるほど傷つくことも知らないまま。
(まずいな、今日は随分と感傷的になってる)
ついこの間、「白薔薇事件」と言われるものが発生して再び記憶を見つめなおしたせいか、それとも彼女との別れの日が近いからだろうか。
多分、どちらも正解だ。
「お茶、いりますか?」
溜息をついたのが聞こえたのか、自分のお茶を用意していた志摩子が振り返りながら聞いてきた。溜息の理由は聞かない、丁度良い距離を保っている私の妹。
「うん、お願いするわ」
こぽこぽと志摩子がお茶を煎れる静かな音が部屋に響く。私は目をつぶりながら彼女がこちらにくるのを待ちわびた。薔薇の館にはまだ誰もこない。
こと、と机に湯飲みが置かれる音がしたのでゆっくりと瞼を上げてありがたく口に含んだ。今日は少し渋めな緑茶で、今の私にぴったりな味だった。隣では志摩子が同じようにお茶を飲んでくつろいでいる。まるで警戒心を解いた兎のようで、私は微笑むと共に心に小さい棘が刺さるのを感じた。
「ありがとう、志摩子」
私をいばらの森から連れ出してくれて。互いに鏡となって写しあってくれて。
ごめん、志摩子。
貴女を知り過ぎた私は貴女を救うことができない。まだ私以外にその表情を表させることができない。
「いいえ、お口に合いましたか?」
お茶に関しての感謝と勘違いした彼女は首を傾ける。
「うん、志摩子の煎れるのならなんでも美味しい」
というか志摩子がくれたものならなんでも嬉しい。
なんてあまりにも率直に言ってしまったためか、言われた彼女はほんのりと頬に赤みをさしてうつむいてしまった。やっぱりわが妹は可愛いなぁと思ったのは祥子や令とまではいかないものの、私だって時々は妹ばかになりたいからである。
窓へ視線を向けると桜の花びらのように白い雪が舞い降りてきていた。くわえて一階から誰までは分からないがこの部屋へ向かって階段をきしませながら上る音がする。
その音を聞き取った志摩子はゆっくりと薄い心の殻を被り、先程の表情を消し去った。私は思わずにはいられない。…栞、貴女もこの子に出会ったら私と同じことを願っていただろうか?

嗚呼、私に勝利したマリア様よ。負け犬の願いでも聞いてくれると言うのならば、どうか志摩子に良き理解者を、良き救い手を差し延べてくれたまえ。

どうかこの願いを聞いてくれたまえ。この願いを聞いてくれたまえ。

永き聖夜に一つの願いを、どうか


※※※

樹とか、まだいばらの森読んでなかったらすみませんorz
めがっさ久し振りに書いた二次創作、聖栞を書こうと思いきやいつの間にか聖志摩子になっていました何故に?ちなみに冒頭部分はマリみて組曲のyou辺りの歌詞なのです、あやばい羽入が…

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