2007年10月26日金曜日

by the train

書いた自分自身にとっても意味不明な短編です。それでもよろしければどうぞ、ご観覧お願いします。

電車に揺られていた。
少しだけフカフカした赤い席に座り、向こう側の流れる背景を眺めている。私の視界には様々な広告と誰も座っていないシートと窓、そして電車の入口に座る柴犬が写っていた。何故電車に犬がいるのだろう?
足先が靴下のように白いその柴犬は行儀よくお座りの姿勢をとっていた。電車が揺れる度に少し位置からずれ、しばらくするとまたもとの位置に座り直す。目的の駅までまだ遠いのか、先程からその行動をずっと繰り返している。電車は駅を通ってもけして入口のドアは開かなかった。電車の駆動音と揺れる音が静かな車両に響いている。
「何故?」
私は静けさに耐えきれなくなった思わず犬に質問した。何故貴方はそこにいるのか、何故その位置に座り直すのか、何故この電車は止まらないのか?

それはそれが私の役目だからさ

犬は答え、役目以外のことをしたために死んでしまった。
電車は私の目的の駅に到着したが、ドアを開けることはなかった。私もまた、降りようとは思わなかった。

※※※

不思議な人に出会った。
終電間際の下り電車で、そこには僕とその人を含めても五人しかいない。窓からの風景は光を飲み込んだ闇しかなくて、ぽつぽつとひかる街灯が星の様だ。いつもこの電車に乗る僕にとってそれは慣れ親しんだもので、最初の頃に感じた小さな感動はもうすでに消え去っていた。
この時間帯に乗る人も大抵は疲れきったサラリーマンか酔払ったサラリーマンで、僕のような未成年が乗っていることは今まで僕が見た限り全くなかった。
そんな電車のなかで、僕の向かいに座る人は不思議だった。疲れきっているようでもなく、酔払っているわけでもなく、出かけるような大きい鞄を持っているのではなくてデイパックぐらいの大きさの赤い鞄を膝にのせ、静かに座っていた。
彼女の視線は常に僕側の入口にあり、何かを見つめているように見えた。僕は横を向いて何を見ているか確かめようとしても、そこには何の変哲のないドアしかない。僕は彼女が何を見ているかとても気になった。
「何故?」
僕は好奇心に負けて彼女に問い掛けた。
何故貴方はここにいるのですか、何故貴方はドアを見つめているのですか?

見えないの?そこに犬の屍体があるの。私の問いに答えたから死んでしまった犬が。

彼女の答えにもう一度ドアを見るがやはりそこには何もない。
彼女はただドアを見つめていた。電車は僕の目的の駅に着き、ドアを開けた。僕は早足で降り、ふと振り返るとあの女性は赤い鞄を膝にのせ、静かに座っていた。

やっぱりここでもドアは開かないのね

電車のドアが閉まる直前に、彼女の呟きが僕に届いた。

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