2007年12月4日火曜日

escape from The Midnight

錆びた鉄の臭いとシンナーの臭いが鼻に纏わりつく。一秒でも早くソレから逃れたい俺はただただ闇雲に夜を走り抜けた。
十六夜の夜明けまではまだ、永い。

escape from The Midnight

荒い息遣いと自転車の風を切る音が俺の鼓膜を支配する。無音の空間に音を造り出している俺は終わることのない道を突き進んでいた。生きているのは俺しかいないという錯覚、終わりの見えない恐怖、夜明けへの渇望と絶望。全てがあいまじり凝縮され俺の中に詰め込まれる。それはとてもドロドロで息苦しく煮えたぎった鉄のようで、もがけども足掻けども、俺の中で体外にでようとひしめきあってい暴れ出す。
無性に叫びたい衝動に駆られるが、残った一滴の理性でそれを抑えた。滴る汗と共に俺の何かが抜け落ちてゆく。十六夜の月は眼のように俺を見つめ、永遠に追いかけてくる。ブレーキは擦切れ使い物にはならず、かなりの速度を出した自転車はさらに漕がれ続け止まることを知らぬ物体となった。

不意に今まで鼓膜を支配していた音が不協和音へと変わる。
耳を澄まし、音を選り分けた。風を切る音、息遣い、鼓動、漕ぐ度に擦れるチェーン、繰り返される地面とタイヤの激突、遠吠え、…途切れない足音。
全身に氷が突き刺される感覚に頭と身体が分離され、自動人形のように身体は自転車を漕ぎ続ける。
既に自転車は止められる速度を越えていた。なのにゆっくりとしたその存在してはいけない音は一定の距離を保っている。永遠に追いかけてくる。
「う、あ…」
悲鳴が汗と共に俺の体内から滲みくる。漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、まだ足音は途切れない。
「あ゛ぁああ゛あぁあぁあああ゛!!!!」
終わらない道、止まらない自転車、途切れない足音、放出される叫び声、迫る曲り角…まがりかど…?
なんでおわらないはずのみちにおわりがみえる。そんな、だってこのみちは終わらないんだ。ヒタヒタヒタ。でもそういえばだれかがいっていた、おわりがあればはじまりがある、はじまりがあればおわりがある。ヒタヒタヒタ。こんなのいやだ、じてんしゃはとまらない。ヒタヒタヒタ。おれはまだなにもしてない、やっとかいほうされたのに。ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ。


徐々に迫った足音に我慢しきれず振り返る。そこには、

俺が滅多刺しにしたはずのあいつがいた。何の表情も浮かべず、俺の背後で歩き続けている。
前輪が何かに当たり不自然に折れ曲がるのを感じた途端、俺は何かとても巨大なものに叩き付けられ押しつぶされた。


夜明けの光を最後に見た。

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