2009年8月12日水曜日

とある回想に依る日常「…もしくは雪那暴走回顧録」「うるさい」

…暴走しました
・字数足りなくて無理矢理終らせた感あり
・美咲・雪那のお話です
・樹たちに百合もの貸したからか、突然書きたくなったorz
だからジャンルは察して…林家志弦布教二人目成功ー!!

・この広い世界でふたりぼっちが五件本屋回っても見つからないorz

※※※

神宮寺雪那


彼女のことは、生まれる前から知っていたと言っても過言ではない。

私たちは香坂と神宮寺の初代当主たちの生まれ変わりだとかなんだとか、色々と言われてきた。それが本当なら私でない私がいるという実に不愉快なことではあるが、前世からの付き合いということなら、生まれる前から知っていてもおかしくはない。

迷わない彼女は、いつも揺れる私を支えてくれる。私がいるから、彼女は迷わないのかもしれない。
本当は折れやすい心を持っている彼女を、私は支えているつもりだ。彼女がいるから、私は折れることを知らない。
つまりは二人がいることで、二人は互いの長所と短所をつくり補い合っている。

雪那がいなければ、私は「私」ではなくなるだろう。
私がいなければ、恐らく雪那は「雪那」でいなくなる。


自惚れなんかじゃない
雪那のことは知っているから
私が彼女の何を知っていて、何を知らないかも

雪那だけが、私を構成する唯一の「世界」だから

世界のことを知っているのも、
知らないことを知っているのも、
当たり前ではないだろうか?

※※※


……
………

私は体を動かさずに、目だけ開いて意識を戻した。

目に見える天井は馴染み深い…いや、まだ住んだ年月から言えば実家の方が長いが、とにかくそれは私の部屋の天井だった。
音もなく起き上がったつもりなのに、パサリと何かが私の肩から落ちる。つまんで見ると、それはかけた覚えのないタオルケットだった。
次々に与えられる視覚情報に起動たばかりの私の頭は耐えられず、とりあえず目を瞑ることで応急処置を施した。

さて、何も見えなくなったところで確認しよう。

ここは私が住むマンションの一室だ。
正確に言うなら私の住む部屋の、狭いダイニングに置かれたでかいソファの上だ。

そして私は寝ていたらしい。「彼女」がいつものように部屋へ来たところまでは辛うじて記憶があるけど、それ以降どんな対応をしたか思い出すことができない。
私は「彼女」が側にいるか、何度も頭を殴打されて昏睡状態にでもならない限り眠ることはない。頭は痛くないから、恐らく前者の理由で眠ったのだろう。
この前寝たのがちょうど意識がなくなる前の記憶から四日前だったはずだ。どうやら疲れが祟って、緊張の線を切ると一気に眠りの淵へ着いてしまったらしい。
そうだとすると、私は余程のことがない限り起きないはずなのに…さすがに二、三日ずっと眠ってましたなんてのはない。お伽話の眠り姫じゃあるまいし。
…読んだことは、ないけど。

「あら、起きちゃった?」

ふれると溶ける、雪のよう
そんな柔和な声が私の背後から舞い落ちた。
振り返らなくても相手は判ったけど、それでも私は振り返る。
色素の薄い、けれど艶やかな灰銀の髪
虹彩までも色は薄く、僅かばかりの茶色に透けて血の色が見える
彼女は夏を体験したことがあるのかと疑いたくなるほどの白い肌
細身の体に柔らかい笑みはいつ溶けてしまうか不安になる儚さをかもしだす
「だがしかし、実際は結構図太い一面もあるのです」
物事に動じないとも言う
「こら、建前と本音が逆だよ」
そう言いながら笑う神宮寺雪那は、トレイ片手にソファを回り込んで、私の向かいにある机の前で腰を下ろした。
トレイには、簡単ながらも色とりどりのおかずが並べてある。よく見なくても、二人前の食事だった。お茶碗やコップが二つあるし、雪那は少食だから一人でこんなには食べれない。
「ずっと寝てるみたいだから、先に食べちゃおうかと思ってたところなんだけど。ちょうどよかったわね」
箸を一膳、私へ渡しながら雪那が言う。
低血圧じゃないし、普段ならもっと綺麗な目覚めなのに、今日は直前で夢に似た何かを視たからか、どうも頭の回転が遅い。まだ身体や思考が綿に包まれた感覚で、私は雪那から箸を受け取る。
「…寝てからどのくらいたった、かな」
「んー、24時間ほど。もうちょっと寝てても平気だったのにな」
「そっか…でも、それじゃあ雪那とご飯食べられなかったよ」
………ようやく頭がいつも通りに働き始めようとしたけど、その動くか動かないかの微妙な時期は思ったことをそのまま口走ってしまうことがある。
今も口にしてから、自分がいかに阿呆な台詞を言ったかに気がついた。見ると、雪那も呆れた顔をしてこちらを見ている。
雪那は感情を顔に出す時は遠慮なく出す。だから余計に心を抉られる。
「…いつからそんな幼児退行しちゃったのかしら」
「いや、その、これはっ、あれだ、あれ!思ってたことをフィルタリングする暇がなかったというか!」
「………墓穴掘ってどうするのよ…」
「だ、大丈夫、今の思考はそんなものじゃないから大丈夫。大事なことだから二回言った。よし、じゃあもう一眠りする。うん、そうする」
いたたまれなくて、テンパってて、もう眠気はすっかり覚めたというのに私はタオルケットを手に、雪那へ背を向ける形でソファに寝転んだ。
どうも今日は頭のネジの調子が悪い。

そんなことしたって、お互いのことは判ってしまうというのに。

「一方的はズルイよ。私も幼児退行しちゃおっかなぁ」
……やめれ。
その口調が既に幼児退行してる。
「…私もせっかく久しぶりに二人きりで食べられると思ったのにな」
うぐぐ。
ズルイのはどっちだよと言いたい。
こっちが寝られないのも、自分が言ったことが本音だってバレてることも知ってて、それでも口にする。
そんな彼女は、言い忘れたけど意地が悪い。
「そしてあなたは意地を張る」
「…誰がうまいことを言えと」
恨めしく思いながらタオルケット越しに顔を覗かせると、雪那は心から幸せそうな顔をしていた。
多分、同じことを考えていたのとそれで充分私をからかえた両方からきた笑顔だろう。
「で、私はどうせ起きちゃったなら一緒に食べたいわけだけど」
そちらはどうですか?なんて雪那は問い掛ける。
先程は口から無意識に滑った言葉だったけど、今度はちゃんと意思を持って口にしろと言っている。
昔の雪那はもう少し性格に可愛げがあったのに。
…小っ恥ずかしい。穴はどこだ、入りたい。でもここには隠れる場所も選択肢もない。
「…………わ、私も食べたい、です」
「誰と?」
「ぅぐうぅぅっ…!!雪那と一緒に食べたい!はい、これでいいんでしょ!!もういい加減からかうのやめてもいいんじゃない、雪那!?」

「ふふふっ、よくできましたー。正直が一番よね、…美咲?」

わざわざ相手は判っているのに言う恥ずかしさ!しかも相手が私に言わせる屈辱!
二つが同時に私の頬を赤らめる。
そんな私を涙目ながら雪那が笑う。もうちょっと慎んでも罰は当たらないから慎めと言いたい。そんなあからさまに笑うないでほしい。
「ご褒美に…はい、お口あーん」
おかずの一つである肉じゃがのジャガイモを箸にとると、雪那はそんなことをのたまいながら私に差し出してきた。
「私はどこの二歳児なんだ!!そのくらい自分で食べられるっ!」
もう幼児退行ごっこはお終いにしてほしいのに、悪乗りが過ぎる!
私が半ば本気で怒っているのを理解できなかったのか、しばらくきょとんとしていた雪那はどこかで結論に至ったのか、仕方なさそうにジャガイモを自分の口に運んで咀嚼した。
「…………あー、美咲はまだ判んないか。これの意味」
残念そうに雪那が呟く。なんだ?子供の真似ごと以外に意味があるのかそれは。
「美咲がまだまだうぶって意味」
「なんで"口にあーん"を拒んだらうぶなんだよ。そんなもん、寧ろ子供が親にされるものじゃないのか」
我が実家ではありえないけど、一般論的に言って。
「うん、ソウダネー…美咲がもうちょい知識を増やせば、よりからかいの幅が広がるのに」
「広げなくていい」
「何も特別なことじゃないらしいわよ。ほら、好意を持つ同士が相手の口に食べ物とはいえものを入れるのってドキドキ背徳感覚じゃない。それを手軽に味わいたい恋人がするわけよ、"お口にあーん"」
「だったら湊としろよ!?恋人なんだし!!」
「だから予行演習よ、美咲も好意を持つ同士には間違いはないんだし…でも実際、結構危なかったわ。自分がいつもしている日常行為を他人にするのって、勝手が違うというか…こんなにもドキドキするなんて…」
「じゃあするなよ!?」
雪那が変な説明したから、こっちまで先程の記憶が甦ってドキドキするじゃないか!!
た、確かに自分がいつもすることを雪那にやられると、気恥ずかしいさ。髪の毛梳かれたり、傷の手当てとか意識しないようにしていたかも…。
でもだって、たかがジャガイモだけど、口に入れられるとか…ってちょっと待て、何故もう一回ジャガイモを私へ差し出すんだ雪那ぁ!?
「ザ・リベンジッ」
「ばっ、馬鹿!?」
ジャガイモを渡しやすいようにか、向かいから隣へ寄ってきた雪那を必死に押しとどめる。が、雪那も色々と混乱しだしているらしく、こうなったらどの予行演習だってやってやるみたいな危ない雰囲気で迫ってくる。
…私と雪那では腕力の差はかなりある。でも、あるからこそ加減が逆に難しい。まして雪那だ、私が力づくでなんとかできるわけもない。雪那は私の唯一の弱みと言っていい。
でもとりあえずこの危ない雪那はだめだと思う心と雪那に抗えない心の葛藤が私の中で繰り広げられる。
周りの気温が二、三度高くなったんじゃないのか。私も雪那も顔が赤い。せっかく眠気から覚めた頭を、熱さが靄となって覆ってゆく。
そのせいか、雪那をとどめる力が少しずつ弱くなる。身体が段々、彼女には降伏だぜと白旗を上げてゆくような錯覚に陥った。雪那は雪那で勝機とみたか、ジャガイモを私の口の前まで持ってきた。
「みっ、さっき…ほら、口開けて?」
「ちょっ…雪那怖い!」
「大丈夫、今楽にしてあげるわ…!」
なんかもう雪那の目的が倒錯してる。そのことにさえ彼女は気付かない。私も思考の片隅で考えただけで、もう身体はほとんど雪那に服従してしまっていた。

雪那が差し出すジャガイモを、口がゆっくりと開いて中へ入ることを許した。
彼女のうろんだ瞳が私の潤む瞳と交錯する。
もはや抵抗する意思のない私の腕は、ただ触れる雪那の熱を感じるためだけにある。
…頭が霞み、もう成すがまま。何を成されてるかも判らない。ただ、舌がジャガイモの感触を感じ取って……


「……………何してんの、二人とも」


最後の最後

ソファの後ろ側にある台所横の戸口から声がして
邪魔者、もとい救世主が現れた


名を、武仁湊という


※※※

武仁湊。
肩書きは、雪那の恋人である。

「俺は頼まれてた書類を渡しに来ただけだったんだが…何故赤面の雪那が、同じく赤面の美咲を押し倒すように肉じゃがを食べさせようとしている場面に出くわさなきゃならないんだろうな」
「しっ、知るか!!この状況はこっちが聞きたいぐらいだ…!」
「えと、ありがとう武仁くん」
ちなみに二人はもう離れている。私はソファに、雪那は湊から何か書類を渡されていた。
人生は三十六計逃げるに如かずがモットーの湊は、恋人から誤解であるとの説明を受けると追及しないまま逃げるかと呟きながら帰っていった。
どうやら雪那がドアを開けっ放しにしていたそうだ。不用心、とは私もよくやるのであまり言えない。

私も雪那も、こちらの「常識」とは異なる常識の世界から逃げた存在だから

無理に入ったら殺されることが明白の家に、鍵など注意書があればいらないから。

……そんな感じで、有耶無耶にしてみる。私たちの世界は、逃げてきた身としてあまり語りたくない。
今回の騒動も、雪那は逃げてきたこの世界の「常識」を知って、試してみたかったからだろう。

………そうやって、私は自分を納得させた。
ちなみに食事はその後普通にとった。

ただ、それだけの話

まだ、世界が壊れる前の話

0 件のコメント: